小説のカズイスチカ

Ads by Google

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【羊達の沈黙:トマス・ハリス】

【あらすじ】
 FIB訓練生クラリス・スターリングはある殺人犯に対して心理テストを行うことを命じられ、ボルティモア精神病院で檻の向こうのハニバル・レクター博士と出会う……。長編。


【感想】
 一年ほど前に読んだ本です。しかし未だに鮮烈に覚えているのはその怜悧な筆致と穿った心理描写。独特の文体と視点から紡がれる物語には作品全体に物凄い緊張感を漂わせています。
 この『羊達の沈黙』をサイコやミステリに分類する人が多いですが、これは本格の文章表現に挑んだ作品だと思います。以前のレビューで書いた『山川方夫:博士の目』にも同じような緊張感がありましたが、これはそれを凌ぐものでした。
 この異様な空気を生んでいるのは豊富に出る学術的な記載と猟奇殺人事件の捜査です。少し一部を抜粋してみますと、

“「ここへ来ることについて、私に手紙をくれたな、返事はしなかったような気がする――いや、しなかった。するべきだった」
「あなたはほかにやるべき事がたくさんあったのです」
「VI−CAPについて、知っているかね」
「凶悪犯逮捕計画であることは知っています。あなたがデータ・ベイス製作中だがまだ実用段階にはいっていない、と<法執行会報>に出ていました」”

 上の会話は冒頭の、訓練生のスターリングと上司のクローフォドとの会話です。スターリングが手紙のことでクローフォドにお気になさらずと言っていますが、次にはもう別の話題(捜査に関すること)に切りかわっています。『羊達の沈黙』の登場人物の多くは知的で切り替えが早いのです。それでいながらも、凶悪犯に対する憎悪やつまらないセクハラに対して憤慨したりします。そういった様々な感情の浮き沈みを示しており、淡々と記述される物語の中に人間味が垣間見えるのです。これは大きな特徴であり、魅力のひとつです。

 また登場人物も非常に魅力的です。文章の表現だけでなく、微細な視点から人物を掘り出していきます。たとえば、普段は気にせずに流すような人間の仕草、漂っている物のにおい、身に付けているもの、部屋の状態など、いろいろな視点からこの人物はこういう性格でこんな生活を営んでいるのだということを悟らせます。

 ストーリーはサイコスリラーと呼ばれるだけあってグロテスクだったりバイオレンスだったりするのですが、嫌になるほどではありません。人物を描く上での一種のツールのようなものでした。まぁエンターテインメント性は多分にあるのですが、無理やりこじつけたという感じはしません。すごく綺麗に物語の中に収まっていました。
 ちょっと長い小説ですが読みにくいものではないです。ぜひ読んでみてください。


応援する!
にほんブログ村 小説ブログ 小説読書感想へ


【出典】
THOMAS・HARRIS 菊池光 訳, 羊たちの沈黙 THE SILENCE OF THE LAMBS 新潮文庫ハ 8 2, 新潮社, 2007
ISBN978-4-10-216702-1

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 

トラックバック