シドロモドロな日記 〜小説とかエッセイとか〜

【宇宙人に関するレポート】 A4:三枚以内 〆切:夏休みまで


 姉からレポートを頼まれた。
 宇宙人についてのレポートである。
 別に会社が姉に命令したわけじゃないだろう。
 会社の上司が『ちょっと宇宙人についてレポート書いてきてくんない?』とかいうわけがない。
 すべて姉の児戯である。
 いやでもひょっとしたら姉は宇宙人に乗っ取られているのかもしれない。
 インプラント手術を施され無意識のうちに操られる姉。
 とつぜん急激に抹茶プリンが食べたくなったり、タバコを7カートンほど買い貯めてしまったり。
 そんな異常行動を繰り返すようになって、それでFBIとかが僕んちにやってきて

 「残念ですがあなたのお姉さんは宇宙人です」

 とか言われてしまうかもしれない。
 姉が宇宙人とか、中学生の神様とか、腋丸出しの巫女とか、なんかもうわけわからん。


 とりあえず夏までに宇宙人に関するレポートを書くことになった。
 もし出来上がったらどっかにアップロードしてみようかな。



たばこと新潮文庫

 青白い空気をした早朝の都心で、僕はマクドナルドの二階にいる。喫煙席ではない。窓側の、通りを見下ろすガラス窓のカウンターに座っててりやきマックバーガーセットを食べている。カウンターに白いエナメルのショルダーバッグと新潮文庫が一冊、それと使い古したSH901ic置いて、コーラを飲んでいる。

 その僕の後方5メートルほどのところに喫煙エリアがある。喫煙エリアは透明なアクリル板で区切られて十席ほどの容積がある。そこには出勤前のOLと女子高生の二人組、電気工事者の装いをした壮年の男性などがいる。彼等(彼女等)はタバコを吸っていたり、いなかったりする。

 さて、タバコ1箱270円前後。
 新潮文庫1冊500円前後、安いものは380円ほど。

 僕はタバコを吸わない、喉が弱いからだと思う。兄は吸っていたが止めた。姉は今も吸っている。喫煙者の遺伝子というものが存在するなら僕もそういう遺伝子を持っているのだと思うが、喉が弱いために吸っていない。かわりに僕は本を読む。姉は少し本を読むけれど兄はほとんど読まない。素質はあるのだと思う。

 読書の価値とタバコを吸うことの価値を比べてみようと思った。
 そういうつもりでこれを書き始めた。

 しかしもう、それは不毛な作業のように思える。
 僕は充実と虚心のために読書をしていて、ならば同じように、喫煙者も充実と虚心のためにタバコを吸っているのではないか。どちらも嗜好品でしかない。僕にとっての読書は嗜好でしかない。それは生活のスタイルでもある。姉の吸うタバコも生活のスタイルであり、嗜好なのだと思う。

 僕はがしがし本を買うし、姉はすぱすぱタバコを吸う。どちらが無駄でどちらが中毒なのかはよくわからない。ただ、静謐な表情で姉が本を読んでいる姿より、一本のか細いタバコを吸っている横顔の方がカッコよく見えてしまうことがある。そのとき、僕は「ああ、また負けた」と思ってしまうのだ。


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世にも奇妙なお前

 二十歳を過ぎた僕に対して姉は言う。

「Mさんはアキラよりアホやわ」

 Mさんとは姉の彼氏さんのことである。
 彼氏さんと僕(アキラ)とは一ダースあまりも年齢が離れているのだけれど、姉はそう言ってはばからない。
 知り合って6年、つきあってX年。きっと二人は考え方とか、モノの好みとか、いろいろな違いを暴露しあっているのだと思う。それを踏まえて彼氏さんと僕とでは、僕の方が賢いと言う結論に姉は達したのだ。
 これは恐ろしいことだ。
 二十歳をこえたら皆、大人になってしまったらしい。
 Mさんも僕も、姉も母も、兄も従妹のMちゃんも。
 みんな、高校生とか女子学生とか店長とか看護師とか、そういう垣根を越えたもっと大きな概念でひと括りにされてしまったのだ。そして仕分けが済んだら続いて順位付けがはじまる。一人一人が評価をつけていく。

 「あいつよりもアキラは馬鹿だな」 「あのひとは頭がいいけど、アキラくんは……」 「アキラ君に比べてあの子はよく気が利くなぁ」 「お前は変なやつだけどいいやつだよな、奇妙なだけのアキラとはちがうなぁ」

 身の毛がよだつ。

 僕はいつのまにか、姉の中で大人の土俵入りをしていたのだ。いや、姉の中ばかりではない。そういえば最近になって「大人になったのねぇ」と親戚や近所のおばさん、出前のお姉さんによく言われる。そして決まって「立派になったのね」とか、尾ひれがついてくる。でもそれは本当に立派になったということではないのだ。単に見かけや年齢が大人になったと、そういう意味なのだ。
 ああ、きっとこれからもどんどん僕にラベルが張られていくんだろうなと感じる。そして個人がつけた僕に対する評価は一定のコミュニティの中である程度共有されて、僕というキャラ付けがなされるのだ。
 僕のキャラってどんなんだろうか?
 ちょっとラベルをめくってみても、どうしてかラベルは僕の目には見えない仕組みになっている。馬鹿には見えないラベルなのかもしれない。これはもう、かなり困った。


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【感想011:穂村弘:本当はちがうんだ日記】

【穂村弘】 本当はちがうんだ日記

本当はちがうんだ日記


 あらすじ
  歌人・翻訳者・エッセイストの穂村さんが書くウフフ日記。おもしろい。

 感想
  本当はちがうんだ! 僕はこんなやつじゃないんだ! こんな人生じゃないんだ!
  そういう儚い叫び声が聞こえてくる日記。

  で、日記の内容を一段落だけ引用してみる。

 先日、上野駅のトイレに入ろうとしたら満員だった。全部の便器がふさがっているのをみた瞬間に、だめだ、と思う。私にはその後ろに並んで待つことができないのだ。くるっと振り向いて引き返そうとした私を、ちょうど入ってきたおじさんが手で遮って、ほら、空いたよ、とひとつの便器を指さした。胸が熱くなって涙が出る。おじさん、優しいおじさん。ぼく、ぼく、あだ名がないんです。

 穂村さんはあだ名というものを一種のペルソナであると捉えているようだ。そのペルソナのおかげで、他の皆はトイレの行列に並ぶことができるし、音痴でもカラオケで熱唱することができると、そういう風に考えている。
 なにかの失敗を犯しても、『恥』を塗るようなことがあっても、それはあだ名を持つ人からすれば自分のペルソナが汚れるだけでその本人は実のところまったくの無傷であり、清潔でいることができるのだとそう言っている。

 穂村さんは自分はあだ名がないからどんどん自分が傷つき汚れていくんだ! と、そんなことを叫んでいる。それが面白い。

 穂村さんは日常のささやかな一場面をくりぬいてきて、そこに人間味を見出すプロフェッショナルだ。短歌をよくながむので、そういうことが得意なのだと思う。

 この本を読んだ人はちょっとだけ元気になれる。そんな気がする。


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【犬よりはかしこい】

 うちの工学教授はよくたとえ話をする。

「君たちさぁ、けっこう賢いよね。うん。見てて思うんだよ。うちの犬よりはかしこいなぁって」

 僕らはとうぜん憤慨する。犬より賢いってそりゃ当たり前だろうと、でも、なぜかちょっと嬉しくなったりするのは僕が負け犬根性だからか。

「いや、だって犬ってけっこう賢いでしょ? うちの犬はね、けっこう値が張るいい犬なんだけどね、ほら、雑種とかじゃなくって血統書付きの」

 ここでふと思った。
 僕ら人間にも雑種とか血統とかいうのがあるのだろうかと。雑種と血統書付きとの違いってどんなものなんだ? ひいひいお爺ちゃんが中国人だったりしたら、僕は雑種なのだろうか。それともひいひいひいお爺ちゃんがロシア人だったら雑種なのだろうか。
 どこからが雑種の境界なんだろう。

「まぁ、俺がね、芸を教えようとするんだけどね。なかなか言うこと聞いてくんないわけよ。一ヶ月くらいおんなじこと繰り返し繰り返し言って、やらせてようやく覚えてくれるわけ。でもさぁ、君らって一回言ったら分かるでしょ? そこのペンチ取ってっていったらすぐ取ってくれるじゃん? 『先生! ぺんちって何ですか?!』 とか聞かないでしょ? ペンチ取らせるのに一ヶ月も訓練が必要だったりしないでしょ? だからさぁ、人間って言うのはよくできてるなぁって、俺は思うわけよ」

 僕はこの教授がけっこう好きだったりする。変な話をしてくれて面白いからだ。

「だから、こういうややこしい数式(ベルヌーイの定理)見ても理解出来る頭は持ってんだからさぁ。もっと勉強しようよ。君ら」

 話の締めに叱咤してくれたりするので僕は助かったりする。僕は生来あんまり根性のない方なので、怒られたり、褒められたり、そうやって刺激されてやっと勉強する気が起きてくる。こういう刺激を与えてくれる先生が僕は好きだ。


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